2016読書 |
まずは、第60回江戸川乱歩賞受賞作というタイトルに惹かれて手に取った。子どもの頃『怪人二十面相』少年探偵団シリーズをドキドキしながら読んだことが懐かしい。怖くて夜眠れなくなった。
さて、この作品は出だしが迫力満点の描写で始まるが、そのうち静かな恐怖が迫ってくる。主人公は盲目の初老男性。失明したことで母親を恨み、妻に当たり散らし、娘には自分の世話をするのは当たり前と不遜な態度をとる。母は泣き、妻は去り、娘とは深い溝ができてしまう。肉親は他には兄がいるが、中国残留孤児である兄の顔を見ることができないがために実兄でないのではと疑っている。
人は人と接するとき、相手が話す内容より、仕草や目の動き、クセ、表情などを見て相手の真意を判断するという。盲目であるということは、声のトーンや話し方でしか判断ができない。主人公は常に相手に疑心暗鬼の心をいだいて気を許すことがない。家に誰かが潜んでいるのではないかという考えに取り憑かれたり、誰かが自分を殺そうとしていると思い込む。
さすが乱歩賞受賞作!怖くて夜眠れなくなりました!
点字の仕組みや白杖の使い方、盲人用時計や器の水量を量る道具など知らなかった世界だ。また戦争により翻弄された中国残留孤児達の壮絶な人生。子どもが一人異国に取り残される恐怖は想像を絶する。残留孤児達は実際にいたのだ。この本は推理小説でありながら、人を疑う心の闇、戦争の犠牲になった人々の恐怖、悲しみが何重にも渦巻いていた。しかし謎がスルスルと解けるときの快感も味わえる絶妙な小説だった。
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